ものづくりの空間 —もの・建築・都市のつながり—


 ものを作る工場や工房には独特な魅力がある。大抵の場合、外観は簡素で、大らかな架構の下に適度な換気や採光がとられ、ものを生産する道具が適切な位置に設えられている。そこには、ものをつくるための合理性と、恣意的な意匠の無い匿名性、そして環境との呼応がみられる。このそっけなさと活気は人々を魅了する。工場ツアーは近年人気を集めており、そうした最近の現象だけでなく、ル・コルビュジエは工場建築の礼讚から近代建築の機能主義を理論化し、ベッヒャー夫妻は産業建築を「無名の彫刻」として写真に収めている。

 

 私たちの研究室では、特に、地域の素材や環境を活かした地域産業の「ものづくりの空間」をフィールドサーベイしている。大学が立地する宇都宮市では、「宮染め」という染めの産業(注染)が盛んである。染工場は、綿の産地や消費地への交通が発達し、水が使える都市河川沿いに立地する。巻かれた反物が、洗われて櫓(やぐら)に干され、畳まれて染められ、布の形態が変化しながら工場空間をめぐる様子は、布の成長過程のようであり、都市の風景の一部となっている。同じく栃木県の益子町は、民藝運動が発展した益子焼の産地である。陶土が採取され、登り窯は山の斜面に築かれ、製陶所では、粘土から器へ変化する工程の中で、湿度や日射が考慮されている。現在調査している酒蔵は、清らかな井戸水や湧き水を求め、神酒をふるまう神社や宿場町との関わりの中で立地している。蔵の内部は、米を発酵させる麹菌に快適な高温から、酒の熟成に適した低温まで、温度環境を考慮して設えられ、人だけではない生物と同居する空間となっている。新酒の披露や祭りの際には「蔵開き」が行われ、一般の人々を呼び込み、都市に公共空間を提供するのも魅力である。
 

 これらのものづくりの空間では、ものの視点から、人間中心の計画学が拡張されている。また、自然や都市基盤を活かした製造過程には、ものと環境の有機的なつながりがある。こうした、もの・建築・都市のつながりは、近代社会で分断され、現代のグローバル化で一層不可視になっているが、そこには、豊かな空間の文化を再構築するヒントが含まれている。

 

(建築士2018年11月号より転載)